天狗と武市の話

 明治の初めの頃、矢納の高牛地区に小池武市という少年が母と二人で住んでおりました。

 ある日、武市が山奥の沢でヤマメをとっていると目の前に突然天狗が現れ「ヤマメをくれ」とせがみます。

 可愛そうに思った武市は、ヤマメを天狗にあげると天狗はそれをうまそうにたいらげるとこう云いました。

 「小僧、お礼にいい所へ連れて行ってやる。俺の背中に乗れ。」と云い背を出したのです。

  武市は、恐る恐る天狗の背中に乗ると、天狗はたちまち大空高く舞上ったのです。山も野原も手でつかめる程に小さくなって、村の家々などはまるで米粒のようです。初めはびっくりしていた武市でしたが、そのうちにすっかり有頂天になってしまい家に帰ることすらすっかり忘れてしまいました。 夜になっても武市が帰らないので心配したお母さんや村人があちこち探し回りましたが見つかりません。

 五日目の朝になって漸(ようや)く武市を見つけましたが、その時武市は梯子(はしご)をいくつもいくつも継ぎたさなくては届かない程高い欅の木の上で泣いていたのだそうです。

 「おーい、みんな、どこだよう、助けてくれー、早くおろしてくれ。」と高い木の上から泣きさけんでいるのです。

 村人達は梯子をいくつもいくつも集めて継ぎ合わせて、漸(ようや)く武市を助けおろしたそうです。 助けおろされた武市はその後、天狗に教わったのだという「胃腸の薬」を作って売り歩き人々に大層喜ばれたという事です。

 今でも、矢納の鳥羽地区内に「薬、安く売ります」という、看板が残っているということです。

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